先日、日本の昨年の自殺者数の速報値(確報値は3月公表)が公表された。これによると、統計開始以来初めて2万人を下回った。日本政府も17年に大綱を策定し、26年までに30パーセント減(15年比)を目標にしている。 この背景にあるのは、G7(先進7カ国・仏、米、英、独、伊、加、日)の中で、日本の自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)が長年トップを走っていることにある。
しかし、単純に数字を減らすことが善なのか、数字が増えることが悪なのか、一度立ち止まって考えることが必要だと私は思う。なぜかと言うと、日本では他の国と違った死生観を抱いているからだ。 日本語では、人が死ぬことを「成仏する」と表現する。この言葉に日本人の死生観が透けて見えると私は思う。日本人は死ぬことを「仏になる」と考えたと言うことだ。
これには、「神仏習合」が起因する。仏教では死ぬことを輪廻転生と考えた。つまり、「生まれ変わる」と言うものだ。一方、神道では死ぬと祖先神(子孫の守り神)となると考えられています。先祖を大切にすると言う考えはここから来ている。この2つの考えが混ざりあった結果、「死ぬと仏に成る(成仏)」となった。
また、イスラム教やキリスト教などでは、自殺はご法度のようです。これは、「人間は神のもの」と言う考えに由来しているようです。一方、仏教では自殺については「どちらでもない」スタンスのようです。神道には教典と言えるもの(コーランや新旧聖書にあたるもの)が存在しないので、可不可の教えもまたありません。
このような独特な宗教の融合を果たした日本では、「死」や「自殺」への考えも特殊なものとなったのだと私は思う。そんな国の日本で自殺者が減る(増える)ことが善(悪)と言えるか。欧米の感覚では自殺者が減ることが善なのだろうが、日本もその考えに従えばいいのだろうか? 私は、欧米の考えにすべてを委ねることもまた危険だと思う。
私は「結果」ではなく「原因(理由)」 が大切だと考える。「自殺した人間の増減」より、「なぜ自殺した人が減った(増えた)のか」が大切ではないか。日本が今、住みにくい・生きにくい国なのだとしたら、それを改善することが重要だと思う。
最後になるが、私は自殺を推奨している訳ではない。ただ、何もかも欧米の感覚を輸入し、没個性になることはどうかと考えている。もちろん、欧米の感覚を否定するつもりもない。昔からある神道の考えと、あとから入ってきた仏教の考えを織り交ぜて、独自の文化にした祖先を見習って、独自の感覚を養えたら良いと思う。
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